15章 転調(1)
 転調、あるいは移調とは、曲が途中で別のキーに変化するこ とを言います。これはアレンジ上の小技というか、飽きさせな いためのテクニックというか、展開に困った時の転調というか、 まあ単純な進行から逸脱してみたくなる時によく使われるもの です。イントロから歌い出しの間にいきなり転調して意表をつ くとか、サビで転調して盛り上がるとか、間奏だけ別のキーに 行ってムードを変えてみるとか、様々なパターンがありますね。  理論的に見れば、この章で扱う転調(本格的転調)と今まで 見てきた一時的転調(ドミナントモーションを使った『仮V7− 仮I(Im)』のパターン)との違いは実質的にはないんですが、 強いて言えば違うキーに行っている時間の長さであると言えま す。一時的転調は瞬間的に元のキーから外れて曲の雰囲気にア クセントをつける効果がありますが、すぐに戻ってくるために 全体的なトーナリティを崩すことはほとんどありません。これ に対して本格的転調はもう完全にキーの移り先で曲が進行して いきます。  さて、まずはどうやって転調が行われるか、ここからは転調 をいくつかの種類に分けて解説することにしましょう。
 ドミナントモーションによる転調
 ドミナント7thコードを使った転調です。転調前にあらかじ め新調のドミナント7thコードを準備しておいて、原調と新調 のつながりをスムーズにします。
■近親調(関係調)への転調
 近親調(関係調)とは、あるキーから見て近く感じられるい くつかのキーのことです。この場合、元のキーを主調といいま すが、主調と近親調の間には多くの共通点が見られ、その間の 転調もスムーズに行われます。 ■メジャーキーの近親調■ 原調 = I(C) ┏━━━━┯━━━━━━━┯━━━━━━━┓ ┃ キー │ 名称 │ ドミナント ┃ ┠────┼───────┼───────┨ ┃ Im(C) │ 同主調 │ V7(G7) ┃ ┠────┼───────┼───────┨ ┃ VIm(Am)│ 平行調 │ III7(E7) ┃ ┠────┼───────┼───────┨ ┃ V(G) │ 属調 │ II7(D7) ┃ ┠────┼───────┼───────┨ ┃IIIm(Em)│ 属調の平行調 │ VII7(B7) ┃ ┠────┼───────┼───────┨ ┃ IV(F) │ 下属調 │ I7(C7) ┃ ┠────┼───────┼───────┨ ┃ IIm(Dm)│下属調の平行調│ VI7(A7) ┃ ┗━━━━┷━━━━━━━┷━━━━━━━┛ ■マイナーキーの近親調■ 原調 = Im ┏━━━━┯━━━━━━━┯━━━━━━━┓ ┃ キー │ 名称 │ ドミナント ┃ ┠────┼───────┼───────┨ ┃ I(C) │ 同主調 │ V7(G7) ┃ ┠────┼───────┼───────┨ ┃bIII(Eb)│ 平行調 │ bVII7(Bb7) ┃ ┠────┼───────┼───────┨ ┃ Vm(Gm) │ 属調 │ II7(D7) ┃ ┠────┼───────┼───────┨ ┃bVII(Bb)│ 属調の平行調 │ IV7(F7) ┃ ┠────┼───────┼───────┨ ┃ IVm(Fm)│ 下属調 │ I7(C7) ┃ ┠────┼───────┼───────┨ ┃ bVI(Ab)│下属調の平行調│ bIII7(Eb7) ┃ ┗━━━━┷━━━━━━━┷━━━━━━━┛ 1)平行調  メジャー⇔マイナー(平行調、同主調)の転調その1。  基準となるキーに対し、調号が同じ(鍵盤上のスケールが一 致する)もうひとつのキーを平行調と呼びます。これは前やっ た通りですね。CメジャーとAマイナーのような関係です。こ れを行ったり来たりする転調も多く見られます。特にサビでマ イナーに転調、という曲はほとんどこのパターンです。  この転調のための最も簡単な方法(進行)は、長短どちらか のトニックで終わって、そこからもう片方の調の進行につなげ る、というやり方ですが、これをもう少しスムーズにつなげる ためにドミナントモーションを挟んでみます。 ● 平行調へ転調(メジャー) =非対応メニューです ◎ ソースを見る ● 平行調へ転調(マイナー) =非対応メニューです ◎ ソースを見る この例で見られるDm7、Bm7-5のように、元のキーと、移動先の キーの両方に属し、転調の際の起点となるコードをピボットコ ードといいます。ピボットコードからのドミナントモーション が平行調間の転調のキーポイントとなります。これは特に難し くないですね。 2)同主調  同じトニックを持つ長・短調の関係を同主調と呼びます。C メジャーとCマイナーのような関係で、これも以前やった通り です。同主調間の転調(旋法転換)は、ピボットコードでなく、 双方に共通するドミナントを使えば簡単です。ドミナントV7 から、メジャー/マイナーへ任意に切り替え解決すればいいわ けです。 ● 同主調へ転調(メジャー ) =非対応メニューです ◎ ソースを見る ● 同主調へ転調(マイナー) =非対応メニューです ◎ ソースを見る  また、この時にドミナント7thコードにテンションを使って 移動先のキーの構成音を含ませてやるとさらにスムーズな進行 を得られます。 3)その他  他の近親調としては主調に対してドミナントの関係である 「属調」、サブドミナントの関係である「下属調」、さらに 「属調の平行調」、「下属調の平行調」がありますが、これら のキーへの転調も同じようにドミナント7thコードを使えば簡 単にできます。  もう一度近親調の音程関係を確認しましょう。 ■メジャーキーの近親調■ 原調 = I(C) ┏━━━━┯━━━━━━━┯━━━━━━━┓ ┃ キー │ 名称 │ ドミナント ┃ ┠────┼───────┼───────┨ ┃ Im(C) │ 同主調 │ V7(G7) ┃ ┠────┼───────┼───────┨ ┃ VIm(Am)│ 平行調 │ III7(E7) ┃ ┠────┼───────┼───────┨ ┃ V(G) │ 属調 │ II7(D7) ┃ ┠────┼───────┼───────┨ ┃IIIm(Em)│ 属調の平行調 │ VII7(B7) ┃ ┠────┼───────┼───────┨ ┃ IV(F) │ 下属調 │ I7(C7) ┃ ┠────┼───────┼───────┨ ┃ IIm(Dm)│下属調の平行調│ VI7(A7) ┃ ┗━━━━┷━━━━━━━┷━━━━━━━┛ ■マイナーキーの近親調■ 原調 = Im ┏━━━━┯━━━━━━━┯━━━━━━━┓ ┃ キー │ 名称 │ ドミナント ┃ ┠────┼───────┼───────┨ ┃ I(C) │ 同主調 │ V7(G7) ┃ ┠────┼───────┼───────┨ ┃bIII(Eb)│ 平行調 │ bVII7(Bb7) ┃ ┠────┼───────┼───────┨ ┃ Vm(Gm) │ 属調 │ II7(D7) ┃ ┠────┼───────┼───────┨ ┃bVII(Bb)│ 属調の平行調 │ IV7(F7) ┃ ┠────┼───────┼───────┨ ┃ IVm(Fm)│ 下属調 │ I7(C7) ┃ ┠────┼───────┼───────┨ ┃ bVI(Ab)│下属調の平行調│ bIII7(Eb7) ┃ ┗━━━━┷━━━━━━━┷━━━━━━━┛  近親調のトニックコードを見て気づいてほしいのですが、こ れらはいずれも原調のダイアトニックコードに対応しています (メジャーのVについては、ドミナント7thコードと考えてし まうと、トニック=G7のミクソリディアンモード、あるいはブ ルーススケールになってしまうので、Vメジャースケールに直 してあります)。  つまりここで、それぞれを仮トニックと見立ててアプローチ するドミナント7thコード、セカンダリードミナントの知識が 役に立つということです。要するに近親調への転調にはセカン ダリードミナントを使って簡単に転調できます。
■遠隔調への転調
 近親調以外のキーが遠隔調です。近親調と対になるキーでは ありますが、考え方としては近親調への転調と同じで、新調へ 移行する前にドミナントモーションで下準備を行い、転調のた めのワンクッションを置けばいいのです。一時的転調でのセカ ンダリードミナントの応用と同じく、新しいキーのドミナント 7thコードを転調部分に使います。 ● サンプル =非対応メニューです ◎ ソースを見る  CメジャーからDメジャーへ上がる転調です。  また、下の例はツー・ファイブ・ワン進行をとりながら半音 下にどんどん転調していく例です。 ● サンプル =非対応メニューです ◎ ソースを見る (EOF)